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SELECTの雑学講座 ~下地補修(ひび割れ・爆裂・脆弱層の除去)~

皆さんこんにちは!
株式会社SELECTの更新担当、中西です!

 

防水は“下地が9割”。下地が整っていなければ、どれほど高性能な防水材でも本来の寿命を発揮できません。今回は、RC・モルタル・ALC・金属デッキ・木下地など下地別の劣化形態を整理し、補修材の選定・手順・検査までを実務の視点で体系化します。

 

1. 原状把握—どの劣化が“水みち”に直結するか
• 構造クラック(貫通・動きあり):温度応力・乾燥収縮・地震で発生。動き追随性のある充填/止水が必要。
• 表層クラック(ヘアライン):主に乾燥収縮。塗膜で橋渡し可能だが、連続性と深さを確認。
• 爆裂(鉄筋腐食):錆膨張でかぶりが剥離。構造耐久性と再劣化の観点から最優先で補修。
• 脆弱層(レイタンス・脆弱モルタル):付着不良の温床。機械的除去が基本。
• 欠損・ジャンカ・蜂の巣:空隙が貯水室に。断面修復で空隙をゼロに。
• 動荷重・振動の影響:廊下・屋上機器基礎周りは疲労クラックに注意。
TIP:劣化の“地図”を作る。A3平面に赤=爆裂/橙=構造Cr/黄=表層Cr/青=脆弱層で色分けし、写真番号と連携。補修数量の見積精度と現場指示の透明性が上がります。

 

2. ひび割れの分類と対処法 ✍️
• 幅0.2mm未満(ヘアライン):表面含浸(シラン・シロキサン系)や微弾性塗材で水の浸透を抑制。
• 幅0.2〜0.5mm(微細〜中):Uカット+シーリング、または低粘度エポキシ注入で連続止水。動きが見込まれる部位は可とう型を選択。
• 幅0.5mm以上(開口):Uカット/Vカットで健全部まで切り、プライマー→バックアップ材→シール。構造的な連続性が必要な箇所はエポキシ樹脂注入で“接着”を先に。
• 貫通クラック:室内側のシミ・滞水が伴う場合は両面処理(外部:止水、内部:化粧補修)を計画。
Uカットの基本手順(RC・モルタル)
1. 墨出し→カッターでU字に切り込み(深さ10〜15mm目安)。
2. ダスト除去→エアブロー+吸塵。必要に応じアセトン拭き。
3. プライマー塗布→規定量を守りオープンタイム厳守。
4. バックアップ材→二面接着を確保。底付けは厳禁。
5. シーリング充填→ヘラで面一に成形。端部のピンホール注意。
6. 養生→表面皮膜形成まで防塵・防水管理。⏳

 

3. 爆裂補修—“原因=鉄筋腐食”にアプローチ
• 診断:中空音・鉄筋露出・錆汁。かぶり厚を実測し、腐食範囲を把握。
• はつり:周囲を健全部+10〜20mmまで機械はつり。刃先の振動による二次クラックに注意。
• 鉄筋処理:ワイヤブラシ・サンダーで白錆近くまでケレン。防錆材(無機ジンク・ポリマーセメント系)で被覆。
• 断面修復:
o 急結厳禁:急ぐと収縮割れ・界面剥離のリスク。
o 素材選定:ポリマーセメント系(汎用)/エポキシモルタル(高付着)/繊維補強(厚肉)。
o 打継ぎ処理:親水化→プレウェット→プライマー/ボンド施工。
• 仕上げ:周辺との平滑な面一を確保し、角欠けは面取りで応力分散。
✅ 検査ポイント: – [ ] はつり範囲に錆残りがないか(鏡・ライト併用)。 – [ ] 鉄筋背面まで周到にケレンできたか。 – [ ] 断面修復材の充填密度(空洞・豆板なし)。 – [ ] 24h後の表面ひび割れの有無。

 

4. 脆弱層の除去—“付着を邪魔するもの”を消す
• レイタンス・白華・チョーキング:ワイヤーブラシ・ディスクサンダーで除去。粉塵を残さない。
• 旧防水・塗膜の剥離部:全面撤去 or 健全部まで切り戻し。境界は段差見切りで勾配を崩さない。
• 油分・離型剤:中性洗剤・アルカリ洗浄→高圧水洗→完全乾燥。油分はプライマーの最凶の敵。

 

5. 断面修復材・樹脂の選び方
• ポリマーセメントモルタル:付着・耐水性バランス良。大面積の基本形。
• エポキシモルタル:高付着・低収縮。端末・角部・点荷重部に◎。ただし熱環境に注意。
• 無収縮グラウト:機器基礎やボルト周りの充填に。
• 可とう型シーリング:動きがある取り合い・クラック追随が必要な箇所に。
• ウレタン樹脂注入:止水重視。含水部でも反応するタイプを選択。
• エポキシ樹脂注入:接着・一体化が目的。乾燥条件が必要。
選定の軸:動く/動かない、乾いている/濡れている、点荷重/面荷重、紫外線の有無、厚み、工期。

 

6. 金物・貫通部・アンカー跡の止水
• アンカー孔:穿孔→清掃→プライマー→止水材→機械固定の順。コーキング単独はNG。
• 貫通配管:スリーブ周りは止水リング+可とうシール。温度変化で動くため追随性を優先。
• 笠木ビス:ビス頭に頼らず、下地木口の防水端末を強化。差し込み金物で二重化。

 

7. 含水管理と乾燥—“急がば回れ”の核心 
• 含水の悪影響:膨れ・剥離・白化・泡噛み。通気緩衝工法でも限界はある。
• 測定:ピン式・非破壊式の相対値で経時変化を追う。同一機器・同一条件で比較。
• 乾燥戦略:
o 風通し・除湿・送風・加温(安全管理)。
o 脱気筒の計画的配置。
o 雨期は工程バッファを見込む。⏱️

 

8. 下地平滑化—膜厚・溶着を左右する仕上げ
• 不陸調整:防水層が均一厚で乗るよう、3m定規で±3mm以内(目安)に。
• 入隅・出隅のR:10〜20mmの面取り/R出しで塗膜破断を防止。
• 目地処理:シート重ね代/塗膜のブリッジに影響。段差を消す。

 

9. 品質管理(ITP)—数値と写真で“見える化”
• 記録:
o ステップごとにBefore/After。
o 材料のロット・使用量。
o 気象(温湿度・風速)。
o 養生時間のタイムスタンプ。
• 合否:
o 目視:欠損・段差・ひび。
o たたき:中空音なし。
o 付着:引張付着試験(必要に応じ)で0.7N/mm²以上(例)。

 

10. ケーススタディ
10-1. バルコニー床の微細クラック網状
• 状況:築15年、モルタル押えにヘアライン網状。雨後にシミ。
• 対策:
1) 含水確認→表面含浸(シラン系)で吸水抑制。
2) 入隅はUカット+可とう型で動きに追随。
3) 上から通気緩衝ウレタンで主防水。
• 結果:降雨後の滞水ゼロ、シミ解消。
10-2. 屋上の爆裂多数(鉄筋露出)
• 状況:築30年RC、屋上押えコンクリートに爆裂30箇所。
• 対策:
1) はつり+ケレン+防錆を徹底。
2) 繊維補強モルタルで断面修復。
3) 仕上げは機械的固定シートで振動の影響を低減。
• 結果:一年点検で再爆裂なし。表面温度低下で劣化速度も緩和。

 

11. 失敗あるあると回避策 ⚠️
• はつり甘く錆残り→再爆裂。→白錆レベルまで徹底ケレン。
• Uカット底付け→三面接着で早期破断。→バックアップ材必須。
• 粉塵残り→付着不良。→吸塵+脱脂をルーチン化。
• 乾燥不足→膨れ。→含水ログでGo/No-Go判断。
• 材料の混練ミス→硬化不良。→秤量と撹拌時間を数値管理。⏱️

 

12. 現場5分チェックリスト ✅
☐ 劣化地図の作成(色分け・写真連番)
☐ Uカット/注入の適用範囲と材料確定
☐ 爆裂部のはつり境界と防錆材の種類
☐ 断面修復材の配合・可使時間・打継ぎ処理
☐ 脆弱層・油分・粉塵の完全除去
☐ 入隅R・不陸±3mm以内の平滑化
☐ 含水・温湿度・養生ログの準備
☐ 合否(付着試験/中空音/外観)と写真基準

 

13. まとめ—“防水は化粧、下地は骨格”
美しい塗膜やシートの裏側で、下地が静かに寿命を決めています。クラック・爆裂・脆弱層を原因別に処方し、乾燥・付着・平滑を数値で満たす。ここを丁寧に積み上げれば、防水の寿命は数年以上伸ばせます。今日から下地に時間を投資しましょう。

 

次回予告:「第5回 プライマーと含水率管理」—“プライマーは魔法の糊ではない”。素材別の選定・希釈・塗布量・オープンタイム、含水の見極めとGo/No-Go判断、失敗事例まで深掘りします。

 

 

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